事例006下肢の醜状障害及び軽度の神経症状(後遺障害等級併合第11級)を残した被害者につき、労働能力喪失率20パーセント、労働能力喪失期間を14年間として、後遺障害逸失利益が算定された事例
- 担当弁護士永野 賢二
- 事務所久留米事務所
ご相談内容
依頼主
Fさん(50代・女性) / 職業:主婦
福岡県福岡市在住の50代兼業主婦のFさん(女性)は、駐車場を歩行中、足留めを乗り越えて後退してきた普通乗用自動車と壁に挟まれ、左下肢挫滅傷、左ハムストリング腱断裂等の傷害を負いました。
Fさんは、デブリードマン、半膜様筋腱縫合術、分層植皮術を受け、陰圧閉鎖療法及びリハビリを継続しましたが、左下肢の瘢痕及び右大腿の採皮痕、左下肢痛等の障害を残しました。
弁護士の活動
当事務所は、Fさんの後遺障害診断書等の医証を獲得し、後遺障害等級の申請を自賠責に行い、自賠責より、左下肢挫滅裂傷による左下肢の瘢痕について「てのひらの大きさの3倍程度以上の瘢痕を残しているもの」として後遺障害等級第12級相当に、右大腿の採皮痕について「てのひらの大きさの3倍程度以上の瘢痕を残しているもの」として後遺障害等級第12級相当に、左下肢挫滅裂傷に伴う左下肢痛について「局部に神経症状を残すもの」として後遺障害等級第14級9号に認定され(詳しくは、「醜状障害」「末梢神経障害」を参照してください。)、以上により、併合第11級と認定されました。
本件事案は、治療継続中において、症状固定時期について争いがあったため、当事務所は、事前に医師面談を行い、医証を獲得した上で、上記認定結果に基づき示談交渉を開始しました。
解決結果
本件事案における主な争点は、後遺障害逸失利益でした。
Fさんの醜状障害は左下肢の植皮痕と右大腿部の採皮痕でしたが、いずれも着衣によって隠せるもので、Fさんの職業上(家事及び小売店等の接客業務)において支障があるとはいい難く、また、本件事故後に現に就労できており、神経症状も階段昇降など負荷がかかる動作をしたりする時に痛みを生ずる程度であったため、労働能力喪失率を5%とされ、労働能力喪失期間が制限される蓋然性が極めて高い事案でした。
しかし、当事務所の立証活動と粘り強い交渉により、加害者側は当事務所の主張を概ね認め(労働能力喪失率20%、労働能力喪失期間14年間)、Fさんに対し、既払金のほか1100万円を支払うとの内容で示談が成立し、Fさんに満足いただける結果となりました。
なお、症状固定時期について、加害者側は、当事務所の主張に対し、特段争うことなく認めております。
弁護士のコメント
醜状障害においては、その後遺障害の存在は明らかであることが多く、等級自体を争われることは少ないと思われますが、損害論においては、その障害が認定等級の予定する労働能力喪失率ほどは労働能力に影響を与えないのではないかが争われることが多いといえます。
そして、本件のように、下肢の醜状障害において、いずれも着衣によって隠せるもので、被害者の職業上、労働能力に影響しない事案においては、本来、逸失利益として評価されることはないと考えられます(この場合、後遺障害慰謝料の増額事由として斟酌される可能性はありますが、同慰謝料の増額は100万円から200万円くらいの幅でなされることが多いとされています。)。そのため、訴訟手続きにより、かえって賠償金が下がることもあり得ます。
以上のとおり、紛争解決の手段として、必ずしも訴訟手続が最善であるとは限りませんので、事案に即した適切な解決ができるよう、弁護士に相談して頂きたいと思います。
文責:弁護士 永野 賢二