上肢・下肢の機能障害

1.機能障害の意義

機能障害とは3大関節(上肢:肩・肘・手、下肢:股・膝・足)の動きの障害であり、その程度および障害が両上肢・両下肢に生じたか、一方の上肢・下肢に生じたかによって等級が認定されます。なお、3大関節ではありませんが、上肢前腕の主要運動である回内・回外運動が制限されている場合も、関節の機能障害に準ずるものとして評価されています。

運動障害である可動域の制限のほかに、動揺関節も機能障害として取り扱われます。

機能障害は、受傷部位への必要な治療と、機能回復のための必要な時間の経過を待って等級評価が行われます。認定基準では、①骨折部にキュンチャー(髄内釘)を装着し、あるいは金属釘を用いたことが機能障害の原因となる場合は、それらの除去を待って等級認定を行い(原因とならない場合は、創面治ゆをもって等級認定を行う)、②ギプス固定後に残った機能障害のような廃用性の機能障害は、将来における障害の程度の軽減を考慮して等級認定を行うとしています。

2.測定方法

可動域制限の程度は、日本整形外科学会および日本リハビリテーション医学会が策定した「関節可動域表示ならびに測定法」に準拠して定められた「関節の機能障害の評価方法及び関節可動域の測定要領」に従って測定され、評価されます。

関節可動域の機能障害の認定は、障害の残存した側(患側)の可動域を測定し、原則としてこれと障害の残存していない他方(健側)の可動域とを比較して行います。ただし、事故前から他方の肢に何らかの障害が存在していた場合(別の事故により機能障害が残存していた場合など)や、事故により両方の上肢・下肢に障害が残存した場合(両肩をギプスで固定していたために、双方に関節拘縮が生じている場合など)は、健側の肢が存在しませんから、平均的な運動領域(参考可動域角度)との比較で判断することとなります。

機能障害の認定は、原則として他動運動(外的な力で動かせる可動域)による測定値(他動値)でなされます。ただし、神経の麻痺や疼痛による可動域制限のように(なお、実務的には腱の断裂を原因とする場合も同様に取り扱われています。)他動値によることが適切でない場合は、自動運動(被験者が自分の力でうごかせる可動域)による測定値(自動値)を用いることとなります。

また、関節の動きは各関節によりさまざまなものがありますが、等級認定は原則として主要運動により判断されます。

部位 主要運動 参考運動

  • 肩関節 屈曲(前方拳上)、外転(側方拳上)・内転 伸展(後方拳上)、外旋・内旋
  • 肘関節 屈曲・伸展
  • 手関節 屈曲(掌屈)・伸展(背屈) 橈屈、尺屈
  • 前腕 回内・回外
  • 股関節 屈曲、伸展、外転・内転 外旋・内旋
  • 膝関節 屈曲・伸展
  • 足関節 屈曲(底屈)・伸展(背屈)

3.認定基準

上肢・下肢の機能障害に関する認定基準は以下のとおりです。

上肢

等級 障害の程度 認定基準

  • 1級4号 両上肢の用を全廃したもの
    上肢の3関節のすべてが強直し、かつ、手指の全部の用を廃したもの。
    上腕神経叢の完全麻痺もこれに含む。
  • 5級6号 1上肢の用を全廃したもの
  • 6級6号 1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの
    「関節の用を廃したもの」とは、次のいずれかに該当するものをいいます。
  • a 関節が強直したもの
    関節がまったく可動しないか、またはこれに近い状態(健側の関節可動域の10%程度以下に制限されたもの)をいう。
    なお、関節可動域が10度以下に制限されている場合も「これに近い状態」と評価される。
    ただし、肩関節にあっては、肩甲上腕関節がゆ合し骨性強直していることがX線写真により確認できるものを含む。
  • b 関節の完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態にあるもの
    他動では可動するものの、自動運動では関節の可動域が健側の可動域角度の10%程度以下となったものをいう。
  • c 人工関節・人工骨頭をそう入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
  • 8級6号 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
  • 10級10号 1上肢の3大関節中の関節の機能に著しい障害を残すもの
    「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは、次のいずれかに該当するものをいいます。
  • a 関節の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
  • b 人工関節・人工骨頭をそう入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2を超えるもの
  • 12級6号 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
    「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは、関節の可動域が健側の可動域角度3/4以下に制限されているものをいいます。

下肢

等級 障害の程度 認定基準

  • 1級6号 両下肢の用を全廃したもの
    下肢の3大関節のすべてが強直したもの。3大関節が強直したことに加え、足指全部が強直したものもこれに含む。
  • 5級7号 1下肢の用を全廃したもの
  • 6級7号 1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの
    「関節の用を廃したもの」とは、次のいずれかに該当するものをいいます。
  • a 関節が強直したもの
  • b 関節の完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態にあるもの
  • c 人工関節・人工骨頭をそう入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
  • 8級7号 1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
  • 10級号 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
    「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは、次のいずれかに該当するものをいいます。
  • a 関節の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
  • b 人工関節・人工骨頭をそう入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2を超えるもの
  • 12級7号 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
    「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは、関節の可動域が健側の可動域角度3/4以下に制限されているものをいいます。

4.動揺関節

(1)意義動揺関節とは

意義動揺関節とは、関節の安定性機能が損なわれたため、関節の可動性が正常より大きく(参考可動域以上に)、あるいは異常な方向に運動可能になったものをいいます。他の機能障害と同様に、その原因が器質的なものであることが必要であり、その原因によって、神経性、靱帯性、骨性に分類されますが、特に靱帯損傷が原因で異常な関節運動が生じている場合は関節不安定性と呼ばれます。

(2)認定基準

動揺関節については、後遺障害等級表に該当する箇所はありませんが、その運動が自動的であるか他動的であるかを区別せず、次のとおり相当等級を認定するものとされています。

上肢

等級 障害の程度

  • 10級 常に硬性補装具を必要とするもの 10級(「著しい機能障害」)に準じる
  • 12級 時々硬性補装具を必要とするもの 12級(「(単なる)機能障害」)に準じる
  • 12級 習慣性脱臼 12級(「(単なる)機能障害」)に準じる

下肢

等級 障害の程度

  • 8級 常に硬性補装具を必要とするもの 8級(「用を廃したもの」)に準じる
  • 10級 時々硬性補装具を必要とするもの 10級(「著しい機能障害」)に準じる
  • 12級 重激な労働等の際以外には硬性補装具を必要としないもの 12級(「(単なる)機能障害」)に準じる
  • 12級 習慣性脱臼、または弾発膝 12級(「(単なる)機能障害」)に準じる

(3)検査方法動揺関節の検査方法には、次のようなものがあります。

  • ア 画像検査
    ストレスX線写真(関節に負荷をかけた状態で撮影されたX線写真)
  • イ 膝関節特有の検査方法
    ラックマンテスト、前方引き出しテスト、後方引き出しテストなど

認定のポイントと裁判実務

全般的な傾向として、認定基準がある程度具体的であるため、等級評価が争点となることはあまり高くないと思われますが、労働能力喪失率はもちろん、可動域の判定等は争いになることがあります。

(1)機能障害の原因

自賠責保険の後遺障害の等級認定は、将来にわたり残存する障害の有無を評価するものですので、機能障害が認定されるためには、事故により関節の動きが制限される原因となる器質的損傷(関節部分の骨折後の癒合不良、関節周辺組織の変性による関節拘縮、神経の損傷など)が生じたことが必要とされています。したがいまして、疼痛による可動域制限(痛いから曲げられないなど)の場合は、局部の神経症状(12級13号または14級9号)として等級評価がなされる可能性があるにとどまります。

裁判においては、関節可動域制限の原因とされる器質的損傷の有無という争いのほか、腱板損傷等の器質的な原因が確認された場合であっても、それが「事故前からのものではないか」として、事故との因果関係が争点となることも多いです。

(2)測定結果の信憑性

自賠責保険では、通常、後遺障害診断書の検査数値で判断が行われ、疑義がある場合には医療照会がなされます。これに対し、訴訟になると、医療記録から何度か測定された数値が判明することが多く、改善されたはずのものが悪化して重度の障害状態になったという経過が出てくると、その理由付けをめぐって争いとなり、合理的な説明が必要となる場合があります。

(3)基準に達しない可動域制限の扱い

認定基準は機能障害を可動域制限の程度で判断するから、仮に事故により関節の可動域制限が生じていても、基準値に達しない限りは機能障害としての等級認定はされません。しかし、裁判例の中には、基準に達しない可動域制限であってもその実態から後遺障害として評価するものがあります(ただし、裁判所は、被害者の症状を十分に検討した上で認定していますので、何の理由もなく基準に達しないものを後遺障害として等級認定することはありません。)。

また、裁判例には、可動域制限が基準に達しないことを理由に機能障害としては否定しながら、疼痛等が関節付近に残った場合には局部の神経症状として等級認定するもの、慰謝料の考慮事由とするもの、あるいは認定基準を満たした場合の後遺障害等級よりは控えめな労働能力喪失率と慰謝料額を認定するものがあります。

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