事例007両耳鳴及び右肘より遠位のしびれ等の障害(後遺障害等級第12級)を残した被害者につき、過去の事故で後遺障害等級第14級の認定を受け、高齢者で既往症があったにもかかわらず、素因減額がなされることなく、主夫として休業損害及び後遺障害逸失利益が認められた事例
- 担当弁護士永野 賢二
- 事務所久留米事務所
ご相談内容
依頼主
Gさん(70代・男性) / 職業:主夫
福岡県大刀洗町在住の70代主夫のGさん(男性)は、普通乗用自動車に同乗して渋滞停車中、後方から進行してきた普通乗用自動車に追突され、外傷性頚部症候群、脊柱管狭窄症、外傷性頚部症候群による内耳性耳鳴症、両)内耳性難聴、両)内耳性耳鳴症、両)内耳振盪症等の傷害を負い、治療を継続しましたが、両耳鳴及び右肘より遠位のしびれ等の障害を残しました。
弁護士の活動
当事務所は、Gさんの後遺障害診断書等の医証を獲得し、後遺障害等級の申請を自賠責に行い、自賠責より、両耳鳴について「耳鳴に係る検査によって難聴に伴い著しい耳鳴が常時あると評価できるもの」として後遺障害等級第12級相当に、右肘より遠位のしびれについて「局部に神経症状を残すもの」として後遺障害等級第14級9号に認定されました(詳しくは、「耳の障害」「末梢神経障害」を参照してください。)。
そして、当事務所は、上記結果に基づき示談交渉を開始しましたが、加害者側は、Gさんは無職者であるとして、休業損害及び後遺障害逸失利益を認めなかったため交渉は決裂し、当事務所は適正な賠償を受けるため、福岡地方裁判所久留米支部に訴訟提起しました。
解決結果
本件訴訟における主な争点は、①休業損害、②後遺障害逸失利益でした。
休業損害について、加害者側は、「保険会社担当者が無職者であることを確認しており家事従事者である旨の申告は受けていない」「家族の状況からもGさんが家事を負担する必要性はない」等と主張しましたが、当事務所の立証活動により、裁判所は、Gさんの家事労働を女性労働者の全年齢平均賃金の70%と認定しました。
後遺障害逸失利益について、加害者側は、Gさんの傷害と事故との因果関係を否定するほか、過去にGさんが追突事故に遭ったことから、素因減額(素因減額とは、交通事故のほかに、被害者が有する事由(素因)が損害の発生または拡大に寄与している場合に、損害賠償の額を決定するに当たり、それを考慮して減額することをいいます。)を主張しました。そして、加害者側は、医療記録や工学鑑定書を証拠として、素因減額を主張するとともに「極めて軽微な接触事故であり、既に神経症状の後遺症があったことから、本件事故により外傷性頚部症候群を発症していない」とか、「耳鳴症等の原因たる外傷性頚部症候群を発症していないので、耳鳴症等を発症することはない。仮に、発症していても加齢性によるものであって、本件事故と因果関係はない」等と主張しましたが、当事務所の立証活動により、裁判所は、加害者側の主張を退け、当事務所の主張(労働能力喪失率14%、労働能力喪失期間平均余命の2分の1)を採用しました。これに対し、加害者側は、Gさんに14級の既存障害が存していることから、これを控除しない以上、和解には応じられない旨主張しましたが、裁判所は主張立証が不十分であるとして、これを受け入れませんでした。
以上の結果、加害者側が、Gさんに対し、既払金のほか350万円を支払うとの内容で和解が成立し、大幅増額を実現することができました。
弁護士のコメント
家事従事者が事故により家事ができなかった場合に、家事労働を金銭的に評価するというのが最高裁の立場であり、賃金センサス第1巻第1表の産業計・企業規模計・学歴計・女性労働者の全年齢平均の賃金額を基礎として、損害を算定するというのが、実務の扱いになっています。女性の平均賃金を用いるのは、従来、家事労働は女性が担ってきたという背景によるものであり、男性の場合でも、女性の場合と同様に、家事に従事することによって報酬相当の利益を家族のために確保していることから、家事労働による財産的利益を得ていると評価できますので、休業損害が認められますが、算定の基礎としては、男性の場合でも女性労働者の平均賃金を参照して認定されることになります。また、高齢者の場合には、全年齢ではなく年齢別平均賃金を参照することが多く、身体状況(私病の有無)や家族との生活状況(同居者の稼働状況、身体状況、家事の分担状況)などによっては、平均賃金から減額した額を基礎収入とすることが多いです。本件事案では、Gさんの妻が一部家事を行っていたこともあり、女性労働者の全年齢平均賃金の70%として算定されておりますが、同認定を得るには、上記生活状況等に加え、被害者の受傷内容及び治療経過を具体的に主張立証する必要があります。
耳鳴等の障害については、事故との因果関係や、その障害が残存したことによりどの程度労働能力に影響が生じるのかが争われる例が多いと思われます。そのため、被害者の治療経過等に加え、後遺障害の内容及び程度を具体的に主張立証し、労務にはもちろんのこと、日常生活にも支障を来していること等を明らかにする必要があります。また、被害者が高齢者の場合、既往症等があることも多いですが、このような体質的素因については、それが「疾患」であるか否かが問題となり、個体差の範囲に過ぎない身体的特徴等は特段の事情がない限り減額の理由とはならず、本件事案においても、素因減額は認められませんでした。
本件のように、加害者側より、高齢者や無職であることを理由として、休業損害や後遺障害逸失利益が否定され、素因減額を主張されたとしても、具体的に主張立証することにより適正な認定を受けることは可能ですので、あきらめずに、弁護士に相談して頂きたいと思います。
文責:弁護士 永野 賢二