解決事例

事例025頚部痛、左肩痛、左腕痛等の障害(後遺障害等級第14級)を残した被害者につき、交通事故紛争処理センターの審査会の裁定により、大幅増額に成功した事例

ご相談内容

ご相談内容

依頼主
Yさん(60代・女性) / 職業:主婦

佐賀県みやき町在住の60代専業主婦のYさん(女性)は、普通乗用自動車に同乗し、対面信号機が青色を表示した後、進行すべく走行を始めた矢先、後方から走行してきた普通乗用自動車に追突され、頚椎捻挫、左肩打撲傷等の傷害を負い、治療を継続しましたが、頚部痛、左肩痛、左腕痛等の障害を残しました。

弁護士の活動

弁護士の活動

Yさんは、既に、自賠責より、頚椎捻挫後の頚部痛、左肩痛、左腕痛等について「局部に神経症状を残すもの」として後遺障害等級第14級9号の認定を得て(詳しくは、「末梢神経障害」を参照してください。)、加害者側から示談提示(約167万円)を受けておりましたが、その金額が妥当かどうか分からないとの理由で相談に来られました。

加害者側の提示額を確認すると、殆ど全ての費目がそれぞれ裁判基準よりも低額でした。そのため、当事務所は上記認定結果に基づき示談交渉を開始しましたが、金額が折り合わず決裂しました。

その後、当事務所は、適正な賠償を受けるため、交通事故紛争処理センター福岡支部に紛争解決のための申立てを行い、嘱託弁護士による斡旋を受けましたが、加害者側が納得せず不調となったため、審査を申立てました。

解決結果

解決結果

本件における主な争点は、①休業損害、②後遺障害逸失利益、③症状固定時期でした。

休業損害及び後遺障害逸失利益の基礎収入について、加害者側は、Yさんの居住する地域の賃金センサスが全国的規模のものに比較してより低額であることを論拠として、佐賀県の賃金センサスにより収入金額を算定すべきである旨主張しました。これに対し、当事務所は、専業主婦の基礎収入については、いわゆる3庁共同提言(「交通事故逸失利益算定方式の共同提言」判タ1014号)に従い、女性労働者の全年齢平均賃金(全国規模)を基準とするのが原則であることを前提として主張を行いました。これにより、審査会は、当事務所の主張のとおり、Yさんの家事労働を女性労働者の全年齢平均賃金と認定しました。

症状固定時期について、加害者側は、2度の医療照会の結果より、本件事故の約5か月後には症状固定していたと主張しました。これに対し、当事務所は、医証を基に本件事故の約6か月後が症状固定日である旨主張しました。これにより、審査会は、当事務所の主張をそのまま認めました。

以上の結果、加害者側が、Yさんに対し、既払金のほか約364万円を支払うとの内容で裁定がなされ、結果として、大幅増額を実現することができました。

弁護士のコメント

弁護士 永野 賢二

家事従事者が事故により家事ができなかった場合に、家事労働を金銭的に評価するというのが最高裁の立場であり(最高裁昭和50年7月8日判決・交民8巻4号905頁)、賃金センサス(厚生労働大臣官房政策調査部の企画の下に、都道府県労働基準局及び労働基準監督署の職員及び統計調査員による実施自計調査として行われている、賃金に関する統計として最も規模の大きい「賃金構造基本統計調査」のこと。)第1巻第1表の産業計・企業規模計・学歴計・女性労働者の全年齢平均の賃金額を基礎として、損害を算定するというのが、実務の扱いになっています(ただし、被害者の年齢、家族構成、身体状況、家事労働の内容等に照らし、上記の平均賃金に相当する労働を行い得る蓋然性が認められない特段の事情が存在する場合には、年齢別平均賃金を参照するなどして適宜減額することとなります。)。

また、症状固定時期がいつか、すなわち、医学上一般に承認された治療方法をもってしても、その効果が期待し得ない状態であることを前提に自然的経過によって到達すると認められる最終の状態がいつかについては、当該傷害に対する医学上一般に承認された治療方法にどのようなものがあり、それがどのような効能等を有するのか、当該傷害については一般的にどの程度改善する可能性があり、それにどの程度の期間を要するのかなどについての医学的知見を踏まえ、直接被害者の治療、経過観察に当たり、当該被害者がどのような症状経過をたどってきたのか、当該被害者は一般的な症状経過のどの段階にあるのかなどについて検討し、症状がこれ以上改善しないとした医師の判断は、基本的に尊重すべきであると思われます。もっとも、治療によって少しでも症状の改善を目指そうとする医師がこれ以上改善しないと判断することと、人身損害に係る損害賠償訴訟において裁判所が症状が最終の状態に達したと判断することとは別個のことであり、当該医師の判断が人身損害賠償訴訟の観点から見ても合理的かどうかは、検討しておく必要があります。

そして、裁判例の傾向や文献の指摘を踏まえると、加害者が症状固定時期につき、被害者が主張する時期よりも早期であると争う場合、症状固定時期については、それに関する医師の判断を踏まえ、諸事情を考慮してその合理性を判断していくというのが人損損害に係る損害賠償実務の傾向となっております。

いずれにしましても、本件事案のように、加害者側より、家事従事者の基礎収入や症状固定時期が争われたとしても、具体的に主張立証することにより適正な認定を受けることは可能ですので、安易に示談をすることなく、弁護士に相談して頂きたいと思います。

文責:弁護士 永野 賢二

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