過失のある被害者でも100%賠償を受け取れる?
人身傷害補償保険と訴訟基準差額説について

交通事故に遭ってケガを負った場合、被害者の方は相手方の保険会社に損害賠償請求をすることができます。
しかし、ほとんどの場合、請求額は過失相殺によって減額されてしまい、適正な損害賠償額を得ることができません。
今回は、過失のある被害者でも100%賠償を受け取る方法として「人身傷害補償保険」と「訴訟基準差額説」についてご説明します。

1.人身傷害補償保険について

人身傷害補償保険とは

人身傷害補償保険は、自動車事故によって搭乗者が死亡・ケガ・後遺障害になったときの保険で、ほとんどの任意保険に付けられています。
ケガの治療費、通院交通費、休業損害、入通院慰謝料などが補償され、後遺障害がある場合は、それらの他に逸失利益、後遺障害慰謝料などが補償されます。死亡した場合は、逸失利益、死亡慰謝料、葬儀費用などが補償されます。

発生した損害に対して、契約上定められた金額の範囲内で損害額の支払いがなされます。
また、加害者が任意保険に入っていない場合には、ご自身の任意保険で治療費や休業補償、慰謝料を支払うことになりますが、その場合も人身傷害補償保険が役に立ちます。
人身傷害補償保険や弁護士費用特約を利用しても、保険料は上がらないので、安心してお使いいただけます。

過失割合に関係なく支払われる

人身傷害補償保険の大きなメリットは、被害者の方の過失割合に関係なく、保険金が支払われることです。その際、事故の相手方と交渉をする必要はありません。
自身に過失割合がある場合に利用することで、相手から獲得できる損害賠償額よりも、高い金額を受け取れることがあります。

例えば、裁判基準で算定した損害額が1000万円で、自身の過失割合が60%だとすると、認められる損害賠償額は400万円になります。これを「過失相殺」といいます。
この場合に、人身傷害補償保険を利用すると、自身の過失割合に関係なく、保険の約款で定められた保険金が支払われます。例えば600万円だとすると、それを先に自分の過失分に充当できるのです。

総損害額100%を受け取れる、訴訟基準差額説とは

「保険金を請求する被害者に、裁判基準での損害額に相当する額が確保される」ことを目的として、平成24年2月に最高裁判決が出ました。その考え方が「訴訟基準差額説」と呼ばれるものです。
ご自身にも過失がある場合、人身傷害補償保険から支払われた保険金を、先に自分の過失分に充当することができるので、過失ゼロの場合と同じ金額の損害賠償請求をすることが可能になります。

つまり、訴訟基準差額説は、過失相殺による被害者の不利益を全額補てんさせる働きを持っている、被害者に有利な考え方なのです。
ただし、訴訟基準差額説による計算方法は少しわかりにくいので、次の項目でご説明します。

訴訟基準差額説による計算方法

例えば、損害総額1000万円、人身傷害補償保険金400万円、被害者の過失割合30%というケースでは、過失相殺後の損害賠償額は、損害総額1000万円から300万円(過失割合30%)を差し引いた700万円となります。

この場合、人身傷害補償保険金が400万円なので、700万円ー400万円=300万円と考えがちですが、訴訟基準差額説では、人身傷害補償保険金400万円から先に過失相殺した300万円を差し引くので、100万円の損益相殺が認められるのです。

その結果、過失相殺後の700万円から100万円を損益相殺することで、600万円の損害賠償請求ができるようになります。
つまり、人身傷害補償保険の訴訟基準差額説によって、被害者に30%の過失があったにもかかわらず、過失ゼロの場合と同じ1000万円の損害を補償してもらえるわけです。

人身傷害補償保険を利用する際の注意点

・裁判をすることが必須になります。

・割合上限(過失70%まで)があるので、人身事故の過失割合が、1(相手):9(自分)、2(相手):8(自分)など、自分が悪い割合が多い場合はマイナスになります。

・人身傷害補償保険は、示談の場合は利用できません。

・人身傷害補償保険は人身事故に限ります。過失割合の影響があるため、物損事故には適用されません。

2.裁判した方が良い場合

人身傷害補償保険があることを前提に、交通事故によって受けた損害や症状が大きい場合、裁判をした方が多額の損害賠償を受けられる可能性が高くなります。

裁判で和解するときは、過失割合よりも損害認定額が重要です。自身の過失分は、人身傷害補償保険から支払われるので、トータルの損害認定額を増やした方が、取得できる金額が増えるからです。
ただし、和解前に、あなたの保険会社が和解内容に基づいて、人身傷害補償保険金を支払ってくれることを確認するようにしてください。

3.裁判しない方が良い場合

裁判をすると、治療の必要性が認められない可能性がある場合には、裁判はしない方が良いでしょう。治療の必要性が争われると、保険会社の示談提示の額よりも下がるリスクがあります。 治療の必要性が認められない場合には、整骨院にしか通っていないケースがあります。また、整骨院と病院の両方に通っているが、連携が取れていないと、「そもそも整骨院に行く必要があったのか」ということが問題になります。 整骨院に通院するのであれば、事前に医師に整骨院での治療についての同意書を書いてもらうようにしてください。

相手方の保険会社も、実際に治療費は立て替えているのに、裁判になると「治療の必要はなかった」と主張することもあります。例えば、6ヶ月通院したのに、2ヶ月の通院しか認められないと、4ヶ月分の治療費の返還を求められる可能性があります。 医師に対しては治療の必要性を覆すのは難しくても、整骨院だと治療の必要性がないと判断される場合があります。医師と整骨院の治療は、明確に違うので、その点にご注意ください。

4.まとめ

人身傷害補償保険を使うことで、過失割合に関係なく保険金を受け取ることができます。ただし、人身傷害補償保険や訴訟基準差額説について、保険会社や弁護士が正しく理解できていない場合もあります。そのため、交通事故に関する経験や実績のある弁護士に相談されることをおすすめいたします。

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