症状固定時期とは?適切な時期を弁護士が解説

1.症状固定時期とは

症状固定とは、「これ以上治療をしてもケガの症状が改善しない」と判断された状態のことです。

症状固定の時期をいつの時点にするかによって損害賠償額(入通院慰謝料等)に差が生じるため、被害者が主張する症状固定時期と加害者が主張するそれとが異なる場合、どのような点を考慮してその時期を定めるべきかが問題となります。

2.症状固定時期の判断基準

争い方によって検討のされ方も変わりますが、症状固定時期について検討されているここ最近の裁判例を検討してみたところ、「後遺障害診断書」に記載されている症状固定日など、医師が判断した症状固定日を、損害賠償額算定における症状固定日と認定しているものが多いという印象ですが、それとは異なる日を症状固定日と認定しているものも相当数あります

このうち、症状固定時期につき理由を付して検討しているものを取り上げ、その理由を整理してみました。一概には言えませんが、概ねの傾向としては、症状固定日に関する医師の判断を踏まえ、その合理性を、①傷害及び症状の内容(例えば、神経症状のみか)、②症状の推移(例えば、治療による改善の有無、一進一退か)、③治療・処置の内容(例えば、治療は相当なものか、対症療法的なものか、治療内容の変化)、④治療経過(例えば、通院頻度の変化、治療中断の有無)、⑤検査結果(例えば、他覚的所見の有無)、⑥当該症状につき症状固定に要する通常の期間、⑦交通事故の状況(例えば、衝撃の程度)、などの観点から判断し、不合理であれば別途適切な時期を症状固定日と判断している、といった説明が可能ではないかと思われます(民事交通事故訴訟「損害賠償額算定基準」下巻(講演録編)2013(平成25年)版10頁)。

それから、上記文献には、「裁判実務において症状固定日はいつか、ということが争点となる。医師作成の「自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書」には「症状固定日」の記載欄があるが、右診断書作成日を症状固定日としている例が多い(中略)。
しかし、症状固定日は、症状の推移等を総合的に判断して決めるべきである」といった指摘をするものや、外傷性頚部症候群についてであるが、「自賠責保険では、労災補償と同じく、治療または治療効果が認められなくなった時点で症状固定と認定される。
したがって受傷後、おおよそ1年の超慢性期の時点では、投薬や理学療法によって加療しても、対症的効果にすぎない場合や、一進一退に経過する場合には、残存・持続する症状を後遺症として認定して、以後、自賠責保険での診療は打ち切りとなり、健康保険に移行することになる。逆に、手術などの治療法によって改善する余地が残されている場合には、症状固定と判定されないが、現実には患者本人の意志が尊重されることになる」といった指摘をするものがあります。

3.医師の診断した症状固定時期は絶対的なものではない

症状固定時期がいつか、すなわち、医学上一般に承認された治療方法をもってしても、その効果が期待し得ない状態であることを前提に自然的経過によって到達すると認められる最終の状態がいつかについては、当該傷害に対する医学上一般に承認された治療方法にどのようなものがあり、それがどのような効能等を有するのか、当該傷害については一般的にどの程度改善する可能性があり、それにどの程度の期間を要するのかなどについての医学的知見を踏まえ、直接被害者の治療、経過観察に当たり、当該被害者がどのような症状経過をたどってきたのか、当該被害者は一般的な症状経過のどの段階にあるのかなどについて検討し、症状がこれ以上改善しないとした医師の判断は、基本的に尊重すべきであると思われます。

もっとも、治療によって少しでも症状の改善を目指そうとする医師がこれ以上改善しないと判断することと、人身損害に係る損害賠償訴訟において裁判所が被害者の症状が最終の状態に達したと判断することとは別個のことであり、当該医師の判断が人身損害賠償訴訟の観点から見ても合理的かどうかは、検討しておく必要があります(なお、後遺障害診断書に関して、実際には、医師としてはもっと早い時期に症状が固定したと考えているものの、被害者がこれを承諾しないため、医師が考える症状固定日よりも遅い日を症状固定日とする後遺障害診断書が作成される場合もあります。
また、交通事故後相当期間経過後に初めて受診した病院で、当該病院における最終通院日をもって症状固定日とする後遺障害診断書が作成されたような場合には、当該判断の合理性をより慎重に検討する必要がある場合もあろうかと思われます。)。

4.まとめ

裁判例の傾向や文献の指摘を踏まえると、加害者が症状固定時期につき、被害者が主張する時期よりも早期であると争う場合、症状固定時期については、それに関する医師の判断を踏まえ、前記のような諸事情を考慮してその合理性を判断していくというのが人損損害に係る損害賠償実務の傾向であるといえます。