赤い本による死亡の逸失利益
算定方式
基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
稼働収入
1.給与所得者
原則として事故前の収入を基礎として算出します。
現実の収入が賃金センサス(厚生労働大臣官房政策調査部の企画の下に、都道府県労働基準局及び労働基準監督署の職員及び統計調査員による実施自計調査として行われている、賃金に関する統計として最も規模の大きい「賃金構造基本統計調査」のことです。)の平均額以下の場合、平均賃金が得られる蓋然性があれば、それを認めます。
若年労働者(事故時概ね30歳未満)の場合には、学生との均衡の点もあり全年齢平均の賃金センサスを用いるのを原則とします。
2.事業所得者
自営業者、自由業者、農林水産業者などについては、申告所得を参考にしますが、同申告額と実収入額が異なる場合には、立証があれば実収入額を基礎とします。
所得が資本利得や家族の労働などの総体のうえで形成されている場合には、所得に対する本人の寄与部分の割合によって算定します(赤い本2006年版下巻13頁「事業者の基礎収入の認定」参照)。
現実収入が平均賃金以下の場合、平均賃金が得られる蓋然性があれば、男女別の賃金センサスによります。
現実収入の証明が困難なときは、各種統計資料による場合もあります。
3.会社役員
会社役員の報酬については、労務提供の対価部分は認容されますが、利益配当の実質をもつ部分は消極的です(赤い本2005年版下巻11頁「会社役員の休業損害・逸失利益」参照)。
4.家事従事者
賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計、女性労働者の全年齢平均の賃金額を基礎とする(最判昭49・7・19判時748・23)。
有職の主婦の場合、実収入が上記平均賃金以上のときは実収入により、平均賃金より下回るときは平均賃金により算定します。家事労働分の加算は認めないのが一般的です。
5.無職者
a: 学生・生徒・幼児等
賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計、男女別全年齢平均の賃金額を基礎とする。
女子年少者の逸失利益については、女性労働者の全年齢平均賃金ではなく、男女を含む全労働者の全年齢平均賃金で算定するのが一般的です(赤い本2018年版下巻7頁「女子年少者の逸失利益算定における基礎収入について」参照)。
なお、大学生になっていない者についても、大卒の賃金センサスが基礎収入と認められる場合があります。
大卒の賃金センサスによる場合、就労の始期が遅れるため、全体としての損害額が学歴計平均額を使用する場合と比べ減ることがあること注意を要します。
b: 失業者
労働能力及び労働意欲があり、就労の蓋然性があるものは認められます。再就職によって得られるであろう収入を基礎とすべきで、その場合特段の事情のない限り失業前の収入を参考とします。
但し、失業以前の収入が平均賃金以下の場合には、平均賃金が得られる蓋然性があれば、男女別の賃金センサスによります。
年金収入・恩給収入
就労の蓋然性があれば、賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計、男女別、年齢別平均の賃金額を基礎とします。
また、高齢者の死亡逸失利益については、年金の逸失利益性が問題となります。
生活費控除率
ア 一家の支柱
(ア) 被扶養者1人の場合:40%
(イ) 被扶養者2人以上の場合:30%
イ 女性(主婦、独身、幼児等を含む):30%
なお、女子年少者の逸失利益につき、全労働者(男女計)の全年齢平均賃金を基礎収入とする場合には、その生活費控除率を40~45%とするものが多いです。
ウ 男性(独身、幼児等を含む):50%
エ 兄弟姉妹のみが相続人の時は別途考慮します。
オ 年金部分
年金部分についての生活費控除率は、通常より高くする例が多いです(赤い本1996年版138頁「退職金・年金の生活費控除率」参照)。
税金の控除
原則として控除しません。
就労可能年数
原則として67歳までとします。
67歳を超える者については、簡易生命表の平均余命の2分の1とします。
67歳までの年数が平均余命の2分の1より短くなる者については、平均余命の2分の1とします。
未就労の就労の始期については、原則として18歳としますが、大学卒業を前提とする場合は大学卒業予定時とします。
但し、職種、地位、健康状態、能力等により上記原則と異なった判断がなされる場合があります。
年金の逸失利益を計算する場合は平均余命とします。
中間利息控除
中間利息は、年5%の割合で控除します(最判平成17年6月14日判タ1185・109。なお、赤い本2006年版下巻227頁「重要最高裁判例情報」参照)。
計算方法として、ホフマン式とライプニッツ式があり、最高裁はいずれも不合理ではないとしていますが、東京地裁はライプニッツ式を採用しており、平成12年1月1日以後に口頭弁論を終結した事件については、大阪地裁及び名古屋地裁も、東京地裁と同様の方式を採用しています(平成11年11月22日の三地方裁判所(東京、大阪、名古屋)の共同提言 赤い本2000年版255頁 判時1692・162参照)。
幼児の養育費
死亡した幼児につき将来の養育費の支払いを免れた部分については、死亡逸失利益から控除しません。
死亡による逸失利益とその算定方法
死亡による逸失利益
死亡による逸失利益とは、被害者が事故により死亡しなければ得られたであろう利益をいい、被害者が生存していれば得られた収入(ないしは経済的利益)の喪失を損害と捉えるものです。
逸失利益の中心は、被害者が死亡しなければ稼働して得たであろう収入の喪失である稼働利益喪失による経済的利益の喪失です。
その算定は、死亡後の就労可能な期間において得ることができたと認められる収入金額から、支出されたであろう生活費を控除し、就労可能な期間の年数に応じた中間利息の控除を行って算定されます。
この場合の収入金額は、原則として、事故前の現実収入を基礎に、年単位、つまり年収としての基礎収入を認定した上、支出されたであろう生活費相当分を生活費控除率を乗じて控除し、就労可能な期間(一般的に67歳を就労の終期としています。)の年数に応じた中間利息の控除を行って算定します。
中間利息控除にはライプニッツ係数を使用するのが一般的です。
また、若年未就労者の場合には、就労開始年齢(一般的には18歳とされます。)までの年数に応じた中間利息控除の係数を差し引いて計算します。
大学生の場合は、大学卒業年齢が就労開始年齢になります。算定式としては、以下のとおりです。
就労者
基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能期間の年数に応じた中間利息控除係数
若年未就労者
基礎収入×(1-生活費控除率)×(就労可能期間の終期までの中間利息控除係数-就労開始年齢までの年数に応じた中間利息控除係数)
他方、死亡による逸失利益には、稼働利益喪失以外の経済的利益の喪失も含まれます。その典型が年金の逸失利益です。
死亡による逸失利益を含む損害賠償請求権は、死亡時に被害者に発生した権利を遺族が相続するという構成をとります。
なお、死亡した被害者によって扶養を受けていた者が、扶養利益を喪失したとして、その固有の利益である扶養請求権の侵害につき損害賠償請求をすることもできます。
この場合、扶養に充てられた金額は被害者の収入で賄われていたものであるため、被害者の生前の収入のうち、扶養に充てられた部分を算定することとなります。
扶養を受けていた者が相続人でない場合には、被扶養者に帰属する扶養利益喪失分を控除した残額が相続人に帰属することとなります。
給与所得者の基礎収入の算定
死亡による逸失利益の算定においては、基礎収入、生活費控除、就労可能期間の認定がポイントとなりますが、ここでは、稼働利益喪失による死亡逸失利益の典型である給与所得者の基礎収入の算定上の注意点を説明します。
若年の給与所得者の基礎収入算定上の注意点
給与取得者の場合は、原則として、事故前の現実収入の金額を基礎収入として算定します。
ただし、死亡逸失利益の場合には、休業損害と異なり、長期間にわたる算定を行うために、単純に事故前の現実収入を基礎収入としたのでは不適切な場合があります。
例えば、被害者が若年者で現実収入が賃金センサスの全年齢平均賃金額を下回っているような場合に注意を要します。このような場合に形式的に現実収入を基礎収入としますと、未就労のため賃金センサスの全年齢平均賃金額を基礎収入として算定する年少者・学生と比較して不利益になるからです。
逸失利益の算定方式について、平成11年11月22日の東京・大阪・名古屋各地裁によるいわゆる三庁共同提言(判タ1014・62)において、基礎収入の認定の運用方針が被害者の類型ごとに説明されています。
ここでは、比較的若年の被害者が生涯を通じて全年齢平均賃金程度の収入が得られる蓋然性が認められる場合については、基礎収入を全年齢平均賃金または学歴別平均賃金によるとされています。
比較的若年であるとは、原則としておおむね30歳未満とされ、上記の蓋然性は、死亡時の職業、事故前の職歴と稼働状況、実収入額と年齢別平均賃金または学歴別かつ年齢別平均賃金との乖離の程度およびその乖離の原因などを総合的に考慮するとしています。
また、この乖離の程度によっては、平均賃金の額から減額した額を基礎収入と認定する裁判例もあります(東京地判平20・12・24自保ジャーナル1797・12、神戸地判平24・2・14自保ジャーナル1873・92)。
昇級、昇格
公務員や大企業の労働者などのように給与規程上に昇級、昇格の基準が明記され、その実施が確立しているなど、将来の昇級、昇格による収入の増加が立証できる場合には、この点を考慮して算定する裁判例があります(最判平16・12・20交民37・6・1489(原審東京高判平15・12・17交民37・6・1514)、東京高判平22・10・28判タ1345・213)。逆に、厳しい経済情勢を踏まえ、将来の昇級・昇格を否定した裁判例もあります(東京地判平15・11・26交民36・6・1483、前橋地判平19・1・24判タ1246・264)。
定年退職制
就労可能期間の終期は、原則として67歳とされていますが、給与所得者の場合、67歳未満の年齢による定年退職制が設けられている場合が通常でしょう。
この場合であっても、定年後は無収入という扱いはせず、原則として67歳までの期間、稼働するものとして算定します。
この場合、67歳までの期間を通じて、同一額を基礎収入として逸失利益を算定し、定年退職とこれに伴う退職金を考慮しない扱いが一般的です(東京地判平26・11・26自保ジャーナル1939・108)。ただし、定年後は、収入減少が生じることが通常予想されますので、基礎収入の額が高額な場合など、定年後にその額を維持することが難しい場合には、定年から67歳までの基礎収入については賃金センサスの平均賃金を参考に認定されることがあります。
就労可能期間
就労可能期間は、原則として、死亡時から67歳までとされます。
被害者が比較的年長の場合は、67歳までの年数と平均余命年数の2分の1のいずれか長い年数をとります。
若年未就労の場合は就労の開始を原則として18歳とされます。
ただし、大学生の場合には、大学卒業予定時となります。また、将来大学入学が想定される場合において、このことを前提に請求する場合には、基礎収入額と就労開始となる大学卒業予定時期との関係を踏まえて検討する必要があります。
死亡による逸失利益における生活費控除
生活費控除率の基本的な枠組み
将来の経済的利益の喪失を損害と捉える死亡による逸失利益の算定は、多くのフィクション(虚構・擬制)の上に成り立ち、損害賠償額を認定する必要上、社会的コンセンサスを背景に一つの割切りがなされているという面があります。
死亡しなければ支出されたであろう生活費を控除する際の生活費控除率も、フィクションの最たるものと言えますが、損害賠償の実務では、被扶養者の有無・人数や、男女の性別を要素に類型化・定型化した基準が形成され、原則としてこれに準拠して生活費控除率を定めています。
一般的に、一家の支柱および女性の場合には30パーセント~40パーセント、その他(単身男性、男児等)は50パーセントが生活費控除率の基準とされます。ただし、女子年少者の場合に、全労働者(男女計)の全年齢平均賃金を基礎収入とする場合は生活費控除率を45パーセント程度とされています。
一家の支柱とは、その収入を主として世帯の生計を維持していた者とされ、東京地裁の交通部では、「赤い本」の基準と同様、被扶養者の数により細分化して、被扶養者1人の場合は40パーセント、被扶養者2人以上の場合は30パーセントを基準としています。
事案に応じた修正を考慮する場面
生活費控除率については、実務上コンセンサスの得られている基準を基本としつつ、事案に応じて修正する場合があります。
裁判例において、①被扶養者の有無・人数、②事故後の親族関係の変動、③相続人が兄弟姉妹であるか否か、④収入の多寡、⑤共働きか否かなどの事情が修正要素として考慮される場合があります。
独身男性で養育費を支払っている場合
独身男性の場合には50パーセントが生活費控除率の基準となりますが、離婚後、離婚した妻に対して子供の養育費を継続的に送金している場合においては、養育費の対象となる子供の人数、支払額、支払期間等の実績を考慮して、生活費控除率が30パーセント~40パーセントに修正される場合があります(大阪地判平19・1・30交民40・1・116、大阪地判平20・8・26交民41・4・1036)。
独身男性に別居の親の扶養的事情が認められる場合
独身男性が、別居している老いた両親の生活費に対する仕送りを継続的にしていたり、親の病院・介護施設等の費用を負担するなど、親に対する扶養的事情が認められる場合には、援助の具体的な内容や継続の蓋然性などを考慮して、生活費控除率が50パーセントよりも低く修正される場合があります(大阪地判平19・4・10自保ジャーナル1718・21、仙台地判平20・10・29交民41・5・1382)。
死亡後に親族の扶養状態に変更があった場合等
事故後、被扶養者が、死亡したり、第三者の養子となったり、婚姻により家計が別になったり、就職するなどして被扶養者の数が減ったり、逆に、死亡被害者の妊娠中の妻が事故後出産をして扶養家族が増えたりした場合など、被害者の死亡後、親族の扶養状態が変更した場合に、こうした事情を考慮して生活費控除率が修正される場合があり、事故当時独身であるも、結婚を約束した女性がいて、一緒に住む予定が決まっていたことを考慮して、生活費控除率を40パーセントとした事例があります(名古屋地判平29・5・19交民50・3・630)。
高額収入を得ている場合
独身女性の場合には30パーセント~40パーセントが生活費控除率の基準とされます。独身男性の場合には50パーセントが生活費控除率の基準とされているのに対し、独身女性の生活費控除率を低くしているのは、生活費控除率が男女間の収入格差の不均衡を是正する調整機能を果たしていることによります。したがって、独身女性の場合でも、高額な収入を得ている場合においては、独身男性と同等の生活費控除率とされる場合もあります(東京地判平17・6・21交民38・3・818、東京地判平15・11・26交民36・6・1483)。
夫婦共働きの場合
被害者が子供のいない共働きの夫婦の夫である場合、夫婦とも収入を得ており、夫の収入のみで生計が維持されていないとして、独身男性と同様に生活費控除率を50パーセントとすることも考えられないではありません。しかし、このような場合には、同居による生活費の軽減が想定されることや、妻が夫よりも低い収入しか得られていない場合なども想定されますので、独身男性と単純に同視することはできません。
また、共働きの夫婦が2人の子供を扶養している場合に、夫と妻がそれぞれ1人ずつ子供を扶養していると考えることもできないではありませんが、夫婦間の収入の高低や具体的な生活状況(生活費負担状況)を考慮する必要があります。
未成年の2人の子をもつ女性公務員(小学校教員)の被害者(事故時47歳)の逸失利益につき、事故前年の給与の額が744万円余であること、夫も小学校教員であること、源泉徴収票に控除対象配偶者や扶養親族の記載がないことなどに照らし、60歳の定年までの13年間は事故前年の年収を、その後67歳までは大卒女子労働者年齢別平均賃金648万円余を基礎収入とした上で、生活費控除率を40パーセントで算定を行った事例があります(東京地判平25・9・30自保ジャーナル1910・85)。
年金の生活費控除率
年金収入だけが死亡逸失利益とされる場合、年金は、もともと生活保障的な性質が強く、生活費に費やされる割合が高いと考えられることから、年金の額を考慮し、50パーセント~80パーセント程度の間に生活費控除率を設定し、通常の事案では、生活費控除率を60パーセントとすることが多いとされています。
重度後遺障害・植物状態患者の生活費控除
死亡逸失利益の算定に当たっては、死亡した者には生活費の負担の必要がないことから、生活費の控除が行われるわけですが、重度介護を要するような重度後遺障害者ないしいわゆる植物状態となった被害者については、通常の意味での生活実態がなく、死亡の状態とある意味では近いため、死亡の場合のように生活費を控除する必要があるのではないかという考え方があります(東京三弁護士会交通事故処理委員会「新しい交通賠償論の胎動」161頁以下(ぎょうせい、平14))。
また、重度後遺障害により長期の生存が危ぶまれる事案など、将来の介護費、医療費等の額が多大になり損害総額が大きくなるため、金額面でのバランス感から、生活費控除の調整機能に着目して調整を行っているものと推測される裁判例なども少なからず存在します(千葉地八日市場支判平14・8・30判時1838・76、東京高判平15・7・29判時1838・69)。
しかしながら、完全な植物状態のような場合はともかく、寝たきり状態であっても、人としての楽しみを持てるような生活をするために健常者に劣らない生活費が必要であると考えることもでき、個別事情を無視して、一般論としてこうした調整をするのは適切ではないとの考え方が強いでしょう。
裁判例でも重度後遺障害であっても生活費控除をしない裁判例が圧倒的に多いと言えます(八木一洋・佐久間邦夫「交通損害関係訴訟〔補訂版〕」178頁(青林書院、平25)、大阪地裁民事交通訴訟研究会「大阪地裁における交通損害賠償の算定基準〔第3版〕」45頁(判例タイムズ社、平25))。
交通事故死による年金の支給停止と逸失利益
年金の逸失利益性
年金の制度と種類
年金関係法制度は、全国民を対象とした基礎年金を定める国民年金法と、その上に積み重ねられる被用者年金各法(厚生年金保険法、国家公務員共済組合法、地方公務員等共済組合法等)の大きく2つに分けられますが、各種年金において、①老齢・退職給付(年金の保険料を納付してきた本人が老齢になりまたは退職した場合に支給される給付)、②障害給付(本人が所定の後遺障害等級に該当する状態にある場合に支給される給付)、③遺族給付(本人が死亡したときにその遺族に支給される給付)の制度があることは共通しています。
各種年金の逸失利益性
年金に逸失利益性が認められるかは、当該年金給付の目的、拠出された保険料と年金給付との対価性、年金給付の存続の確実性等に基づいて判断されます。
①老齢・退職年金(国民年金や厚生年金等)や②障害年金等、被害者が保険料を拠出しており家族のための生活保障的な性質を持つものについては、逸失利益性が認められます。
ただし、①の老齢年金や②の障害年金等に属する給付であっても、扶養家族の有無などを理由として支給される加給年金等は逸失利益算定の基礎収入額から除外されます。他方で、③の遺族年金など受給者の保険料負担のない社会保障的なものは逸失利益性が否定されます。
裁判例
これまで裁判例で判断された各種年金の逸失利益性は概ね以下のとおりです。
逸失利益性が肯定されたもの
国民年金(老齢年金)、老齢厚生年金、農業者年金(経営移譲年金および農業者老齢年金)、地方公務員の退職年金給付、国家公務員の退職年金給付、港湾労働者年金、恩給、国民年金法に基づく障害基礎年金、厚生年金保険法に基づく障害厚生年金、労働者災害補償保険法に基づく障害補償年金および障害特別年金
逸失利益性が否定されたもの
遺族厚生年金および市議会議員共済会の遺族年金、軍人恩給の扶助料、戦傷病者戦没者遺族等援護法に基づく遺族年金、国民年金法に基づく老齢福祉年金
未受給の場合の年金の逸失利益性
年金未受給の場合に年金の逸失利益性を認めることができるかという点について直接判示した最高裁判例はなく、裁判例の判断は分かれていますが、将来の年金受給に高い蓋然性が認められるかという観点から判断されています。
年金受給の蓋然性という観点からすれば、保険料の納付が完了し年金受給資格を既に取得している場合とそうでない場合とを同一に論じることはできないでしょうし、受給開始までの期間の長短も、逸失利益性の判断に影響することになります。
仮に、年金未受給の被害者について年金の逸失利益性が認められた場合には、将来納付する予定であった保険料の控除が必要になります。
年金の逸失利益の算定
年金の逸失利益性が肯定された場合、その算定については、稼働収入の逸失利益性と異なり、より高い生活費控除率が適用されるのが通常です。これは、生活保障的な意味合いが強いという年金の性質や、年金の受給額は稼働収入に比べて低額であり年金受給者は受給した年金を生活費に当てる割合が大きいという実態を考慮したためと考えられています。
遺族年金が支給されている場合には、既受給部分および支給を受けることが確定した遺族年金については逸失利益から控除することとなります(最大判平5・3・24判時1499・49)。
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