無保険車傷害保険
Q自動車事故で死亡又は後遺障害が生じましたが、加害者が加入している対人賠償保険の免責条項に抵触していて賠償を受けられなかった場合に支払われる保険はありますか。
A人身傷害補償保険のほか、無保険車傷害保険があります。
解説
無保険車傷害保険は、被保険者と契約している保険会社が加害者に代わって保険金を支払うという損害填補型の保険(傷害疾病損害保険)です。
現在は、人身傷害補償保険が普及したことにより、これと類似する無保険車傷害保険は特約扱いとなりました。
なお、無保険車傷害保険は、賠償義務者があることが要件とされているため、事故の責任が100%被保険者にある場合には、保険金の支払いはなされません。
無保険車傷害保険が適用される「無保険自動車」とは
Q無保険車傷害保険が適用される「無保険自動車」とはどのようなものですか。
A一般的な保険約款では、①任意保険が付保されていない場合、②免責規定等によって保険金が支払われない場合、③相手自動車について適用される対人賠償保険等の保険金額が無保険車傷害保険の保険金額に達しない場合、④加害自動車が不明の場合(ひき逃げなど)の場合の自動車が「無保険自動車」となります。
解説
相手自動車が2台以上ある場合には、それぞれの相手自動車について適用される対人賠償保険等の保険金額の合計額が無保険車傷害保険金額に達しないと認められる場合に限られる、とされることが多いです。
なお、具体的な事案については個別の約款を確認ください。
無保険車傷害保険の損害に対する支払い対象
Q無保険車傷害保険では、どのような損害が支払いの対象となりますか。
A死亡又は後遺障害が生じた場合の治療費、休業損害、逸失利益等人身損害のすべてが支払いの対象となります。ただし、遅延損害金は対象となりません。
解説
無保険車傷害保険においては、被保険者に死亡又は後遺障害が生じたことが保険金支払義務の発生要件とされているため、重い傷害を負ったとしても、その傷害が完治して後遺障害が残らなかった場合には保険金の支払いはなされません。
無保険車傷害保険金は、被害者等の被る損害の元本を填補するものであり、遅延損害金については填補されません。
なお、保険金の遅延損害金は、約款で定める履行期の翌日から発生し、その利率は商事法定利率である年6分です(最判平成24年4月27日集民240号223頁、判時2151号112頁)。
また、加害者に対する損害賠償請求訴訟を提起した際の弁護士費用についても、事故と相当因果関係があると認められる範囲で保険金の支払対象となります(東京高判平成14年6月26日判時1808号117頁)。
支払われる無保険車傷害保険金額の計算は、損害額を算定し、そこから他の保険による給付等一定の金額を控除する方法で行われます。
損害額の算定は通常の人身賠償で用いられている算定方法によって行われ、過失相殺も適用されます。
人身傷害補償保険と無保険車傷害保険の関係
Q人身傷害補償保険と無保険車傷害保険の双方に加入している場合、その関係はどうなりますか。
A人身傷害補償保険と無保険車傷害保険の適用関係は個別の約款において定められています。
解説
約款のパターンとしては、保険金額が多い方を適用する条項、無保険車傷害保険を人身傷害補償保険の適用がない場合の特約とする条項などがあります。
なお、人身傷害補償保険と無保険車傷害保険は、約款上、いずれか一方のみしか適用されません。
したがいまして、例えば、無保険車傷害保険から支払われない被害者過失部分について人身傷害補償保険から再度填補するようなことはできません(大阪地判平成21年2月16日判タ1332号103頁、大阪地判平成22年8月26日交民43巻4号1042頁)。
自損事故保険
Q単独事故を起こして負傷した場合に支払われる保険はありますか。
A人身傷害補償保険のほか、自損事故保険があります。
解説
自損事故保険は、被保険自動車に搭乗中の者が事故で死傷した場合に支払われる定額給付型の保険(傷害疾病定額保険)です。
相手がいない単独事故のほか、加害者に過失がないなど自賠法3条による給付を受けられない場合にも保険金を請求できます。
人身傷害補償保険と類似する保険であり、人身傷害補償保険が適用される場合には自損事故保険は適用されないとされるほか、近時は人身傷害補償保険が付保される場合には自損事故保険が付保されないものが多くなりつつあります。
搭乗者傷害保険
Q被保険自動車の搭乗者が、搭乗中に生じた事故により傷害を受けた場合に支払われる保険はありますか。
A人身傷害補償保険のほか、搭乗者傷害保険があります。
解説
搭乗者傷害保険は、被保険自動車のみを特定し、それに搭乗中の不特定の者の死亡又は傷害に対して保険金が支払われる定額給付型の保険(傷害疾病定額保険)です。
現在は、人身傷害補償保険が普及したことにより、これと類似する搭乗者傷害保険は特約扱いとなっている場合が多いです。
搭乗者傷害保険金を受領した場合の加害者に請求できる賠償金
Q搭乗者傷害保険金を受領した場合、加害者に請求できる賠償金は減額されるか。
A減額されません。
解説
搭乗者傷害保険は定額給付型の保険であり、損害填補型ではありませんから、保険金が支払われた場合であっても、保険会社は被保険者に代位しません。
また、搭乗者傷害保険金は、損益相殺の対象とはなりません(最判平成7年1月30日民集49巻1号211頁)。
したがいまして、被保険者は、搭乗者傷害保険金と損害賠償金を重ねて受け取ることができます。
ただし、搭乗者傷害保険金を受領したことをもって慰謝料算定の際の斟酌事由にはなり得ることに注意を要します。
人身傷害補償保険と搭乗者傷害保険の関係
Q人身傷害補償保険と搭乗者傷害保険の双方に加入している場合、その関係はどうなりますか。
A人身傷害補償保険から保険金が支払われる場合にも、別個に搭乗者傷害保険金が支払われます。
解説
人身傷害補償保険は、搭乗者の傷害についても広く補償されるため、搭乗者傷害保険と類似します。
もっとも、搭乗者傷害保険は定額給付型の保険であり、損害填補型の人身傷害補償保険とは異なるため、別個に保険金が支払われます。
所有権留保が設定された自動車の車両保険
Q所有権留保が設定された自動車につき、車両保険の保険金を請求できるのは誰ですか。
A所有権留保付売買の買主です。
解説
被保険自動車が所有権留保付きである場合、所有権留保の目的は、専ら買主の未払代金債務の履行を担保することにあります。
したがいまして、車両保険の被保険利益は所有権留保付売買の買主にありますから、同人が車両保険の保険金を請求できます(名古屋高判平成11年4月14日金判1071号28頁)。逆に、留保所有権者である信販会社からは、車両保険の保険金を請求できません(大阪地判平成13年9月27日判時1773号149頁)。
また、いわゆる名義残りや名義貸しの場合に、単に車検証上に所有者として登録されている者にも被保険利益はないから、これらの者から車両保険の保険金を請求することはできません。
社会保険による給付
Q被害者は、その損害について、社会保険による給付を受けることができますか。
A社会保険からの給付を受けることができます。なお、費目によっては損益相殺の対象となります。
解説
交通事故も労災保険における災害に該当しますので、要件を満たす場合は労災保険の給付を受けることができます。
また、交通事故による負傷の治療についても健康保険を利用することができます。
これらの給付を受けるためには、加害者に対する後の代位求償のため、第三者行為災害届(労災保険の場合)や第三者の行為による傷病届(健康保険の場合)を提出します。
このように、代位求償の対象となる費目については、その社会保険金について、損益相殺の対象となります。
他方で、代位求償がされない特別支給金等は損益相殺が認められないとする判例があります(最判平成8年2月23日判時1560号91頁等)。
保険金に対しての課税
Q自動車保険の保険金に対しては課税されますか。
A被害者自身が保険金の支払いを受けた場合、所得税や住民税は課税対象となりません。他方、被害者が死亡した場合、当該死亡によって取得した損害保険契約による保険金のうち、偶然な事故に基因する死亡に伴って支払われる保険金には、保険料の負担者に応じて、相続税(被相続人が負担していた場合)、贈与税(第三者が負担していた場合)又は所得税(一時所得)(保険金受取人が負担していた場合)の課税対象となります。
交通事故により死亡した者の相続人が、遺族年金の受給権を取得した場合
Q交通事故により死亡した者の相続人が、遺族年金の受給権を取得した場合に、損害賠償請求金額に影響はありますか。
A損益相殺的な調整が行われます。
解説
交通事故により死亡した者の相続人が、遺族年金の受給権を取得した場合、支給を受けることが確定した遺族年金を、被害者の給与収入等を含めた逸失利益全般から控除することにより、損益相殺的な調整を行うものとされています(最判平成16年12月20日集民215号987頁、判時1886号46頁)。
自転車事故の保険
Q自転車を運転中、他人を負傷させた場合に支払われる保険はありますか。
A個人賠償責任保険があります。
解説
自転車は、自賠責保険を含む自動車保険の被保険自動車にはなりません。
そこで、自転車を運転したことによる損害賠償責任については、個人賠償責任保険によって対応することになります。
個人賠償責任保険とは、個人又はその家族が、日常生活で誤って他人を傷害したり、他人の物を破損・滅失させたりしたことにより、損害賠償債務等を負った場合の損害を補填する保険契約です。
個人賠償責任保険は、独立した保険契約として締結される場合と、それ以外では、火災保険、傷害保険、自動車保険の特約として契約される場合が多いです。
多くの場合、個人賠償責任保険の被保険者は、記名被保険者のほか、その配偶者、同居の親族、別居の未婚の子を含みます。
したがいまして、加害者本人だけではなく、親族の契約する保険についても調査する必要があります。